その日は、父と母が久しぶりにふたりで回転寿司に行った日だった。
平日なのに店の前には人が多く、
入り口にある待合コーナーのイスは、すでに数人が座っていたらしい。
父は当然のように、そこに腰をおろした。
「まぁ、順番に呼ばれるんだろう」
そんなふうに思っていたらしい。
■ 待てども待てども、呼ばれない
父は、待った。
10分、20分…気がつけば1時間以上が経っていた。
周りにいた人たちは、いつの間にか誰もいなくなっていた。
イスに座っているのは、父と母、ふたりだけ。
「さすがにおかしい」
そう思って店員を捕まえた父は、苛立ち混じりにこう言った。
「もう1時間以上も待ってるんだぞ!!いつまで待たせるんだ!」
■ 店員の返事は、静かで冷静だった
「あの…整理券はお取りになられましたか?」
父、固まる。
■ 受付には“ロボット”がいたらしい
店の入り口近く。
そこには、人ではなく、受付ロボットがいた。
ボタンを押すと整理券が出てくる。
あとはその番号が呼ばれるのを待つ、というシステム。
…でも、そんなこと、父は知らなかった。
誰もいない受付。
並んでる人がいる。
→ じゃあ、そこに座ればいい。
その“感覚”が、父にとっての常識だった。
■ たしかに、説明はあったのかもしれない
入り口の近くに案内板があったかもしれない。
「整理券をお取りください」という表示があったかもしれない。
でも──
それが“目に入らない人”がいることも、忘れちゃいけないと思った。
■ 父の怒りは、寂しさの裏返しだったのかもしれない
1時間以上、誰にも声をかけられず、
誰にも気づかれず、
ずっと待たされていた父。
その「怒り」の裏には、
**“置いていかれたような気持ち”**があったんじゃないかと思う。
「こんなシステム、知らないよ」
「誰か、教えてくれればよかったのに」
そんな“やり場のない気持ち”が、怒鳴り声になって出てしまったのかもしれない。
■ まとめ:「便利さ」は、人によっては“見えない入口”になる
たしかに、今は人手不足の時代。
受付をロボット化するのも仕方ない。
整理券制だって、効率的でトラブルも少ない。
でも、
それが「誰にでもわかること」とは限らない。
少しだけ立ち止まって、
「わからない人」がいるかもしれない──
そんな想像が、これからの優しさになるんじゃないかと思う。
父の失敗は、システムを知らなかったせいだけじゃない。
「誰かが声をかけてくれる」そんな世界に慣れてきた世代にとって、
ロボットとの無言のやりとりは、思った以上に“壁”になるのかもしれない。
回転寿司屋の次に父が立ち尽くしたのは──ATM。
✔ ATMでお金の下ろし方がわからなかった父の話|それは「知らない」んじゃなくて「やったことがなかった」だけだった
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